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中高年R&Bの良さを知る

この記事は2019/3/24 アメブロ 「くるみうりのブログ」に掲載したものです。お猫生活ブログの中で書いておりましたが、文芸ブログ開設に伴い移転させています。 *********************************************************************************   
 
 

 大知君遅咲きファン生活を爆走する私が、YouTube鑑賞の次に始めたのが、過去のアルバムチェックであった。いくつかのアルバムを入手して仕事中も買い物中もウォーキング中も聴きまくった。ここでまたしても仰天する事になるのである。

 

 私は30代になってからは、あまり新しいアーティストのアルバムを聴かなくなっていた。基本的にピアノの音が好きで、普段はピアノ関連のポップス、ジャズ、クラシックを中心にその時の気分でチョイスしている。MediaPlyerを確認したらR&BCrystal Kayが1枚あるだけだった。他のアーティストのアルバムを聴かなくなったのは、私が大人になって若い時ほど音楽を必要としなくなった事と、やはり広い意味でのJ-Popのアルバムで、聴きごたえのある物が少ないと感じた事が原因だと思う。アルバム1枚全曲の平均点を高くキープできるアーティストはそれほど多くないと思う。特に私たちの世代はユーミン、サザンを筆頭に並外れたアーティストを思春期に聴いているので、なおさらそう思うのかもしれない。

 

 また、私はR&B関して言えば、日本の女性シンガーの独特の歌声、ちょっと喉の奥に力が入ったような歌声が、それは1つのテクニックで好きな方は多いと思うのだが個人的に好みではなくて、アルバムを聴くに至らなかったように思う。では海外のR&Bはどうかと言えば、確かに本場物は本物なのであるが、R&Bという音楽は何かこちらに「ねえ聴いてよ~」と語りかけて来るような感じがあって、言葉が解らないと何だか不完全で満足できないのである。これがロックやポップスなら意味がわからなくても「イエーイ」とノリで聴けてしまうので不思議だとは思う。歌声が「切な気」に聴こえるせいだろうか。あるいは独特のビートが関係しているのかもしれない。

 

 そんなR&B初心者の私が大知君のアルバムを聴いたのであるが、予想以上の出来栄えに「本当によくできている」と驚いた。通して何回聴いても飽きが来ないのである。繰り返し言うがシングル発表しない曲のレベルを何曲も高レベルに仕上げることはたやすい事ではないと思う。いいアイディアはここぞという場面まで取っておきたいと思うのが人情である。加えてCDが売れなくなった今の時代、製作費等レコーディングを取り巻く色々な条件が業界最盛期よりも厳しいのは間違いないと思う。ところが大知君のアルバムの中の1曲1曲を聴いて思うのは、まず大知君の歌唱力に合わせて難しくて面白い曲が制作される、それを大知君が精いっぱい歌って、それを聴いたスタッフ・ミュージシャンの大人たちも発奮して仕上げたのではないかという過程が想像できるのである。こうして丁寧に作られた作品全体から浮かび上がってくるのは、「地道さ」と「真面目さ」という底力である。大知君本人はおそらくさらりと「好きな事だから」と言うだろうが、こういう年月を積み重ねて現在があると、感動と共に改めて認識を新たにしたのだった。

 

 ファンの方ならとっくにご存知だと思うが、大知君のアルバムを聴いて次に気が付いたのは、特に「The Entertainer」以降より意識的に様々なジャンルの楽曲でアルバムが構成されているという点である。彼の力量がそれを可能にしている。R&B、ロックのみならず、カントリー調、サンバ調などである。そして楽曲ごとの大知君の多彩な表現力、これが大知君のアルバムの大きな醍醐味であるという事である。つい最近気が付いて「すごい!!」と脱帽したのは、アルバム「FEVER」である。5曲目 MAKE US DO → 6曲目 One Shot  → 8曲目 I’TSTHE RIGHT TIMEにかけて連続で聴くと彼の表現力の豊かさがよくわかる。サウンドエフェクトの効果もあるが彼はきちんと解釈した上で、その曲にふさわしいキャラクターで歌っている。コーラスまで個性が出ている。キャラクターとしか言いようがないのでこの言葉を使うが、いわゆる「声優さん」の歌唱表現とは違う。なんて言うのか力みがなくとても自然で、小手先ではない感じがしてそこが本当にすごい。抜きん出ているように思うのだ。演じるという言葉で思い出されるのは故藤圭子中森明菜であるが、彼女たちは楽曲の役に身を捧げて、体を張って圧倒的な世界を表現し、人々の記憶に残った。男性では、キャラクターによって楽曲を表現したシンガーとして、米米CLUBのカールスモーキー石井が思い出される。彼の場合はあえて「小手先感」を武器にして、「カールスモーキー」=煙に巻くという自身のキャラクターを表現していた。客観性という点で大知君と共通点はある。だが、大知君のような表現をする歌手を今は思いつかないのである。

 

更に11曲目 Supa Dupa Paper Plane → 12曲目 Testify → 13曲目 ふれあうだけで~Always with you にかけて、今度は葛藤する若者の内面の移り変わりが3部作として配置されていように私には思えるのである。その歌詞の内容は当時の大知君の気持ちが投影されているようで、重量感があり思索的であり、最後の「ふれあうだけで」の感動がより大きくなる流れになっているように思える。これはこの曲順番にイヤフォンでじっくり聴き、歌詞を味わっていて突然気が付き鳥肌が立った。そして14曲目 music というグランドフィナーレ、あまりにも華麗である。本当にそういう制作意図があったかどうかはわからないが、聴きこむうちに色々深読みができて面白く、興味が尽きないのである。

 

R&Bからだいぶ話がそれてしまった。本題へ戻るがR&Bとは何かをWEBで色々調べて私なりにまとめた定義で今回はご勘弁いただきたい。R&Bの最大の特徴はやはり、歌詞をリズムとフェイクというシンガーの技で歌い上げるという事になるかと思う。ブロガーの耒仁子さんが本当に詳しく解説されているが、大知君の日本語はとてもクリアで、リズムが声から伝わってくる。まずそこで気持ちが良くなる。日本人には難しいはずのフェイクも自然に言葉に乗って波のように伝わってくる。このリズムと歌声のウェーブに揺られる感と、日本語の歌詞の世界に存分に浸れる安心感、そしてサビでの歌声とセルフコーラスの重なり合う声の響きに包まれる感、ついにR&Bの核心に触れその良さに開眼したのである。特に大知君のセルフコーラスは、各パートの音色が豊かで、低音、中音、高音が一つになって響き合うと、私が愛してやまないピアノの音に包まれているのと同じ種類の安らぎ感があるのである。一時日常の雑事を忘れて、音のゆりかごに身を任す、やさしいウェーブで心のマッサージ、R&Bってヒーリング系だったのね、と解釈したのであった。ちなみに今一番のお気に入りR&Bは「4am」である。

私は素人であって専門家ではない。あくまでも私個人の感想である。R&B評として正しいかどうかはわからないが、こういう発見ができた事で満足なのである。

 

 今回もまた長々と述べてしまったが、私は気に入ったアルバムは最低でも半年程度かけてじっくり聴きこみ、咀嚼するタイプである。まだまだ色々と発見がありそうで、それが楽しみである。まとめとして思うことは、1曲毎、そしてアルバム、作品としての「姿勢の正しさ」と、「チームワーク」が作り上げた作品のすがすがしさである。この20年以上ポップスは矢野顕子Tori Amosという突き抜けた個人の才能が作った音楽を聴き続けてきて、さらにこの10年以上は個人で仕事をしていたので、周囲に無頓着だったかもしれない。今回出会った大知君の才能は天才的だが、作品は良いバランスで仕上げられていて、大事なことを思い出させてくれた。いい大人になって「みんなで協力して1つの作品を作り上げる、チームワークって大事だな」と恥ずかしながら感じ入った。そしてなかなか知名度が実力に伴わず、ファンがやきもきしている大知君だが、この着実さをみると「全然大丈夫」と思うのである。この道のりを歩んできた今の大知君を観ることができる事に喜びを覚える。それくらいいい具合に熟成している大知君だと思う。